沖縄の道路を運転していると、英語のアルファベット「Y」が刻印されたナンバープレートを見かけることがあります。これは日本国内におけるアメリカ合衆国の軍人、軍属、その家族が個人として所有する車両に対して使用される文字のひとつです。「Y」以外にさらに8種類の文字が用意されているそうです。
ちなみに、「軍属」とは「アメリカ合衆国の国籍を有する文民で日本国にある合衆国軍隊に雇用され、これに勤務し、又はこれに随伴するもの」です(沖縄県の「沖縄の米軍及び自衛隊基地(統計資料集)令和4年7月」、110ページ)。つまり「軍人以外の、米軍基地で雇用される米国人」を指します。
始まりは1952年6月の日米合同委員会?
1952年(昭和27年)6月の日米合同委員会において、私有車両の所有者である米軍構成員や軍属が住んでいる都道府県に登録することが合意されたそうです(外務省「米軍構成員、軍属の私有車両の登録」)。1960年1月19日に改正された「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(日米地位協定)」の第十条にも、「合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族の私有車両は、日本国民に適用される条件と同一の条件で取得する日本国の登録番号標を付けていなければならない」と書かれています。
なお、日米合同委員会とは日米地位協定の第二十五条によって設置され、主にアメリカ合衆国が目的の遂行のため必要とする日本国内の施設・区域を決定する協議機関とされます。2023年9月現在、25以上の分科委員会・部会・作業班が組織されています。
登録自動車なら「EHKMTYよ」、軽自動車なら「AB」
一般財団法人 自動車検査登録情報協会さんの「自動車登録番号標(ナンバープレート)の見方」によれば、アメリカ合衆国の軍人、軍属、その家族の車両は「駐留軍人軍属私有車両用」に分類されます。プレートの背景色と文字色は日本国民の自家用と同じものですが、登録自動車なら「EHKMTYよ」から、軽自動車なら「AB」から文字が指定されるそうです。
なお、「登録自動車」とは「普通自動車、小型自動車(二輪を除く)、大型特殊自動車」のことです(国土交通省 自動車局 自動車情報課「ナンバープレートの現状について」)。
沖縄の駐留軍人軍属私有の台数は少なくとも1万4千台以上か(2009年度)
2011年6月末時点、アメリカ合衆国の軍人25,843人、軍属1,994人、家族19,463人が沖縄県内に駐留しているそうです(沖縄県の「沖縄の米軍及び自衛隊基地(統計資料集)令和4年7月」、2ページ)。合計47,300人の米国人が沖縄の基地に滞在していることになりますが、「駐留軍人軍属私有」として登録されている車両の数はどのくらいなのでしょうか?
井上哲士 参議院議員による2010年5月12日付の第174回国会(常会)質問主意書の質問第六七号「米兵等の私有車両の登録に関する質問主意書」には、その目安となりそうな数字が記録されていました。主意書によれば、2009年4月から2010年3月の期間において、沖縄県の「Yナンバー車の登録総数」は14,476台だったようです。「Y」以外の「EHKMTよ」「AB」のナンバープレートも含まれる数なのかは不明ですが、沖縄県内には少なくとも1万4千台以上の「駐留軍人軍属私有車両」が登録されていると言えそうです。
駐留軍人軍属私有車両の所有者も道路使用の税を納める
また、駐留軍人軍属私有車両の所有者は日本国内の道路使用に関する税を納めることになっています(日米合同委員会合意(第13条関係)「私有車両による道路の使用に関する租税(平成11年2月(改正)」)。例えば、総排気量4.5L以内の普通自動車19,000円、総排気量4.5Lを超える普通自動車22,000円、小型乗用車7,500円、自動二輪車1,000円という感じです。
米国・米軍の運転許可や運転免許があれば、日本国内で運転可能
アメリカ合衆国の軍人、軍属、家族は合衆国の運転許可証・運転免許証、軍の運転許可証があれば、日本国内の道路も運転できることになっています(日米地位協定 第十条)。
もし駐留軍人軍属私有車両による被害に遭ったらどうなるの?
万が一、日本国籍の人が駐留軍人軍属私有車両によって被害を被る場合はどうなるのでしょうか。外務省の「日米地位協定Q&A」の「問11」に対する回答によれば、1996年以降は日本国内のすべてのアメリカ合衆国の軍人、軍属、家族は任意自動車保険に加入することになっています。また、「日本政府が補償金を査定し、米国政府との間で補償金支払い」を調整し、「日本政府が無利子融資する制度、被害者の必要経費を米政府が前払いする制度、米国政府の支払い額が民事訴訟での判決額を下回った場合に日本政府が差額を補填する制度」などが導入されています。